FTA/EPAを活用して関税を削減しようと思ったとき、「原産地要件」に頭を悩ませたことはありませんか?

特に、自社製品が複数国の部品や工程から成り立っている場合、「この商品は原産品なのか?」と判断に困るケースもあるでしょう。

そんなときに役立つのが**「累積原産地ルール」**です。
この記事では、累積原産地ルールの仕組みや対象条件、RCEPやTPPなどでの活用方法を、初心者にもわかりやすく解説します。


✅ 累積原産地ルールとは?

累積原産地ルール(Cumulative Rules of Origin)とは、FTA(自由貿易協定)を活用する際に、
加盟国間で行われた原料調達・加工工程を「合算して原産地とみなす」ことができる特例ルールです。


📦 通常の原産地要件との違い

分類内容
通常ルール最終製品の原産地が1つのFTA加盟国である必要あり
累積ルール複数のFTA加盟国で行われた工程・原料も原産性にカウントできる

✅ 例として

【通常】
オーストラリアの素材 → 日本で加工 → 中国に輸出


× 韓国素材は原産性に加算不可

【累積】

オーストラリアの素材 → 日本で加工 → 中国に輸出

〇 韓国と日本は同じFTA加盟国(例:RCEP)

原産性が累積され「FTA原産品」として関税優遇が適用

✅ どの協定で使えるのか?

協定累積適用備考
RCEP(日本・中国・韓国・ASEANなど)✅ 可能加盟国全体で累積対象
TPP11(CPTPP)✅ 可能加盟国間で累積可能(例:日本・ベトナム)
日EU・EPA✅ 可能双務累積(日本とEU間のみ)
日タイEPAなど一部EPA一部のみ限定的な累積しか認められない協定もある

📍 どの協定を使うかで、累積の範囲や条件が異なります。


✅ 累積原産地ルールが重要な理由

理由内容
原産性が通らない商品も「通る」可能性がある原材料の一部がFTA域内なら原産性クリアできるケースも
サプライチェーンが柔軟になる日本+ASEAN+韓国など多国間の工程をまたいでもOK
関税削減が受けられる製品が増える部材の一部が非原産でも全体で「原産品」認定される

✅ 活用するための実務ステップ

  1. 対象FTAを決定(RCEP/TPPなど)
  2. 対象商品のHSコードを確認
  3. 原産地要件(CTC/VA/加工要件など)を確認
  4. 部品ごとの原産地を一覧化する(原産地台帳)
  5. 累積対象の部材が加盟国内かを確認
  6. 累積適用の根拠書類を保存
  7. 原産地証明書の発行または自己証明書を準備

✅ 実務での累積の具体例(RCEPの場合)

🔸 ケース例:

  • 日本で製造された冷蔵庫
  • タイ製のコンプレッサー(部材)
  • 韓国製の温度センサー(部材)

📍 上記いずれもRCEP加盟国 → 累積対象
→ RCEPの原産地要件(CTC:HSコードの変更等)を満たせば、日本原産として輸出OK


✅ 注意すべきポイント

注意点説明
累積対象かどうかは協定ごとに異なるTPPとRCEPで取り扱いが違うこともある
非原産材料の比率制限に注意一部要件では「原産割合○%以上」と定められる
書類保存義務あり累積原産品として申告するには、原産性の証明書類が必要(5年間保存が多い)
自己証明の際は特に厳密に原産地虚偽申告は行政処分・制裁対象になり得る

✅ 累積ルールを活かすには?企業側の対応策

  1. 原材料の原産地を把握する管理体制の整備
  2. 仕入先に原産地証明の提出を求める(または取得方法の標準化)
  3. 原産地台帳・BOM(部材構成表)を用意し、計算ができる体制にする
  4. 原産性をクリアできるよう生産工程を調整する場合も検討

✅ まとめ|累積原産地ルールを活用すればFTAはもっと使える

ポイント内容
累積原産地ルールとは?複数のFTA加盟国の加工・部品を「合算」して原産性を認める制度
どの協定で使える?RCEP・TPP・日EUなど。内容は協定ごとに異なる
メリット原産品の認定ハードルが下がり、関税削減のチャンスが増える
企業の準備原産地台帳の作成、取引先との証明連携、制度理解の徹底

📝 実務アドバイス(輸出入担当者向け)

  • 累積原産地ルールはFTA活用の“最強の味方”です。
  • 貿易管理部門だけでなく、調達・製造・販売部門とも連携し、全社で原産地管理を進める体制づくりが今後の競争力を左右します。
  • 「累積できるなら原産性が取れる」という視点で、仕入先や生産拠点をRCEP加盟国内で設計するのも立派な戦略です。