国際物流において、貨物が無事に届くとは限りません。
火災、積み下ろし中の事故、水濡れ、盗難――
思いもよらぬトラブルに備える手段として不可欠なのが海上貨物保険です。

特に、ICC(Institute Cargo Clauses)A/B/Cという補償範囲の違いを理解することで、最適な保険設計とコストコントロールが可能になります。

この記事では、海上貨物保険の基本からICC条件ごとの補償範囲、選び方までを初心者にもわかりやすく解説します。


✅ 海上貨物保険とは?

海上貨物保険とは、輸出入などの国際輸送中に起きた貨物の損害をカバーする保険です。
海上輸送だけでなく、陸上輸送や航空輸送にも適用可能なオールリスク型の設計が可能です。

主なリスク例:

  • 船舶の事故(沈没・座礁など)
  • 荷役中の破損(落下など)
  • 航海中の水濡れ、火災
  • 荷物の紛失・盗難

✅ なぜ海上貨物保険が必要なのか?

理由解説
輸送中の事故は予測不可能天候や作業ミスでトラブルは日常的に発生
輸送中の損害は誰が負担?インコタームズのリスク移転後は原則、買い手の責任
L/C決済では保険証券が必須特にCIFではICC(C)相当の保険が必要
保険未加入=損害全額負担数百万単位の損失も自己負担に

✅ ICCとは?(Institute Cargo Clauses)

ICC(インスティテュート・カーゴ・クローズ)とは、ロンドン保険市場で定められた国際標準の貨物保険条件です。

現在主に使われているのは、以下の3種類:

  • ICC(A):最も補償範囲が広い(オールリスク)
  • ICC(B):一部の危険をカバー
  • ICC(C):最低限の補償(CIF契約などで標準)

✅ ICC(A/B/C) 補償範囲の違い一覧

リスクICC(A)ICC(B)ICC(C)
火災・爆発
船舶の沈没・座礁・衝突
投棄(貨物を海に捨てる)
荷役中の事故(落下・破損)×
荷崩れ・破損・変形××
水濡れ(波浪・雨)×
盗難・紛失××

✅ 特徴まとめ

  • ICC(A):オールリスク(明記された除外事項以外、ほぼ全て補償)
  • ICC(B):特定の偶発事故に対する中間的な補償
  • ICC(C):最も限定的な補償内容(保険料が安い)

✅ ケース別:どのICC条件を選ぶべきか?

シチュエーション推奨補償条件理由
高額貨物(精密機器・医療品など)ICC(A)万が一のリスクも徹底カバー
一般商材(衣料品・家具など)ICC(B)バランス型。コストと補償を両立
CIF契約の輸出ICC(C)最低限の保険条件で十分(L/C条件を満たす)
航空輸送ICC(A)ダメージが発生しやすく高価な貨物が多いため

✅ 保険証券に記載される主な項目

  • 保険契約者(輸出者または輸入者)
  • 被保険貨物の名称・数量・内容
  • 輸送区間(出発地〜到着地)
  • 補償条件(ICC A/B/C)
  • 保険金額(通常はCIF価格の110%)
  • 発行日・保険会社印

✅ よくある質問(FAQ)

Q. 海上貨物保険は誰がかけるの?

→ インコタームズによります:

  • CIF/CIP条件:売り手が保険をかける
  • FOB/EXW条件:買い手が保険を手配するのが原則

Q. ICC(A)と書いてあるけど、戦争やストは補償される?

→ いいえ、戦争・ストライキ・放射能などは除外事項です。
それらを補償したい場合は「戦争危険担保」「ストライキ担保」を特約で追加する必要があります。


Q. 保険金額はどう決める?

→ 通常はCIF価格の110%(商品代+保険+運賃の10%増し)が基準です。
これは保険請求時の実損だけでなく、利益の一部も補償するためです。


✅ まとめ|海上貨物保険は「補償内容の理解」がカギ

ポイント内容
ICC(A)オールリスク型。費用は高いが安心度も高い
ICC(B)コストと補償範囲のバランス型
ICC(C)最低限の補償。契約条件で必要なときのみ
実務ポイントインコタームズとの連動、信用状要件、補償範囲に注意

📝 実務アドバイス

  • CIF契約で「とりあえずICC(C)」にしていないか?
     → 相手との信頼関係や貨物内容に応じて、AまたはB条件も検討すべきです。
  • 保険会社と定型契約を結ぶことでコストと管理の効率化が可能です。
  • 書類作成時には保険証券を含めたL/C条件との整合性を確認すること。