リチウム電池を航空機で輸送する際、IATA危険物規則(DGR)に基づいた厳格な管理が求められます。しかし、すべてのリチウム電池が「危険物」として扱われるわけではありません。

この記事では、**IATAの特別規定A197(Special Provision A197)**について詳しく解説し、実務でどう適用するか、どんな電池が対象か、どのように表示・包装すればよいかを徹底解説します。


特別規定(Special Provision)とは?

IATA危険物規則では、UN番号ごとに特別な条件や例外が設けられている場合があります。これを「特別規定(Special Provision)」と呼び、DGRのセクション4.4に記載されています。

例えば、「A197」「A88」「A123」といったコードで示され、それぞれが特定の危険物に関する条件や除外ルールを定義しています。


A197とは何か?

✅ A197の定義(IATA DGR 2025年版)

「A197: リチウムイオンまたはリチウム金属電池を内蔵または同梱する装置が、リチウム含有量またはワット時定格エネルギーが特定の制限内であり、かつ特定の条件を満たす場合、危険物の規制対象外として取り扱うことができる。」

つまり、条件付きで「非危険物」として輸送可能になる例外ルールです。


A197が適用される条件

A197が適用されるには、以下のすべての条件を満たす必要があります:

1. リチウム電池の種類と容量制限

種類条件
リチウムイオン電池(UN3481)定格容量が20Wh以下(セル)/100Wh以下(電池)
リチウム金属電池(UN3091)リチウム含有量が1g以下(セル)/2g以下(電池)

2. 電池が「装置に内蔵」または「装置と同梱」であること

  • 単体電池(UN3480/UN3090)にはA197は適用されません
  • 対象となるのは以下のUN番号:
    • UN3481(リチウムイオン電池を装置に内蔵/同梱)
    • UN3091(リチウム金属電池を装置に内蔵/同梱)

3. 適切な包装がなされていること

  • 外部からの衝撃・短絡を防止する構造
  • 装置が偶発的に

4. IATA DGR 例外に沿ったラベル表示と文書管理

  • A197を根拠とした輸送では危険物ラベルは不要
  • 貨物明細書(Air Waybill)に「リチウム電池を含むが、IATA DGRの規制対象外」と明記

A197適用で得られる実務上のメリット

項目メリット
危険物申告書不要(通常はShipper’s Declarationが必要だが、A197なら省略可)
危険物取扱訓練者必要なし(一般貨物として取り扱える)
取扱制限危険物としての厳格な制限を受けない
コスト危険物取扱料金や特別倉庫料が不要になる場合あり

実務での適用例

✅ 例1:ノートPCを輸出する場合

  • リチウムイオンバッテリー内蔵(60Wh)
  • 装置に内蔵、容量制限以下 → A197適用可

✅ 例2:ハンディスキャナーと予備バッテリーをセットで出荷

  • 予備バッテリーが装置と同梱されていればOK
  • 個数とワット時数をチェック → 条件内ならA197適用可

❌ 例3:リチウム電池を単体で輸送(UN3480)

  • A197は適用されず、通常の危険物規定が必要

A197と混同しやすい他の規定

規定名特徴
A88特定のカスタム電池や試作品に関する規定
A123機器に含まれる電池が機能不全でも危険でないと判断される場合
PI 967/970リチウム電池を装置に内蔵・同梱する際の梱包手順(Packing Instruction)

よくある注意点・トラブル

  • バッテリー容量の誤認識:Wh(ワット時)表示がないと適用可否が判断できない
  • 輸出先の規制がA197を認めない場合:国・航空会社ごとに追加規制があることも
  • 危険物扱い不要でも通知義務はある:AWBや梱包に注意文言が必要なケースも

輸送ラベルの表示例(非危険物扱いの場合)

  • ラベル貼付は必須ではないが、以下のような表示が推奨されます:

「本貨物にはリチウムイオン電池(装置内蔵)が含まれていますが、IATA DGRの特別規定A197により非危険物として輸送可能です。」


まとめ

IATA危険物規則における特別規定A197は、条件を満たすリチウム電池を危険物の規制対象外として輸送できる非常に実用的な規定です。正しく理解しておくことで、輸送コストや手続きの簡略化にもつながります。

合わせてリチウムバッテリーなど危険品類を送るときには私たちにご相談ください。

危険品輸送サイト:海外物流サービス(危険品輸送)


✅ 要点まとめ

  • A197はリチウム電池を装置に内蔵・同梱する場合に限り適用
  • 容量・構成・梱包など、明確な条件を満たす必要あり
  • 危険物ラベルや申告書が不要になるため、実務上の負担が大幅に軽減
  • 誤適用や相手国の追加規制には注意!