国際取引において不可欠な「インコタームズ(Incoterms)」は、貨物の引き渡し場所・費用負担・リスクの移転時点を定義するルールです。
その中でも、「輸送保険」に関わる条件――特にFOBやCIFなどの海上輸送用インコタームズは、誰が保険を掛けるのかに直結します。

本記事では、インコタームズと輸送保険の関係性を、初心者にもわかりやすく、また実務経験者にも有用な形で解説します。


✅ インコタームズとは?簡単におさらい

**インコタームズ(Incoterms)**は、国際商業会議所(ICC)が定めた貿易条件ルールのことで、輸出者・輸入者間で以下を明確にします:

  • 費用負担の分担(運賃・保険・通関など)
  • リスクの移転地点
  • 通関責任の所在

✅ FOB・CIF・CFRの基本的な違い

用語意味費用負担(主な分担)リスク移転点保険加入者
FOBFree On Board輸送費以降は買主輸出港で船に積んだ時点買主
CFRCost and Freight輸送費は売主、保険は買主船積み時点買主
CIFCost, Insurance & Freight輸送費+保険料は売主船積み時点売主

🚢 重要ポイント:CIFだけが、売主が保険加入するインコタームズです。


✅ 「保険を誰が掛けるのか」は条件で変わる

✅ CIF条件では:

  • 売主が「輸送保険」へ加入し、保険証券を輸入者に渡す必要がある。
  • 補償条件は最低限の**ICC(C)**でOK(ただし実務ではICC(A)を求めるケースも)。
  • 輸入者が追加で「上乗せ保険」を掛けることも可能。

✅ FOBやCFR条件では:

  • 保険加入の義務は売主にない。
  • 輸入者(買主)側が自ら輸送保険に加入する必要がある。
  • 加入漏れがあった場合、事故時に全額自己負担となる危険性あり。

✅ 実務でよくあるトラブル事例

🔻 FOBで保険未加入 → 全損で泣き寝入り

アジアからヨーロッパへ精密機器をFOB条件で輸入。買主が保険に加入しておらず、貨物が海上事故で全損。
保険金は一切出ず、被害総額約3,000万円を自己負担。

🔻 CIFで売主がICC(C)しか付保 → 輸入者が不満

CIF条件で化粧品を購入。輸送中の破損がICC(C)の補償範囲外であったため保険金が出ず、買主が「補償されると思っていた」とトラブルに。
事前に「保険条件の確認」がされていなかったため、期待と現実にギャップ。


✅ 実務者向けチェックポイント:インコタームズと保険の確認項目

確認項目質問例
インコタームズの種類CIFかFOBか?買主と売主で認識一致しているか?
保険の加入者その条件では誰が保険を掛けるのか
保険条件の明記ICC(A) or ICC(C)?War ClauseやSRCC条項は?
保険証券の交付売主が加入する場合、保険証券は誰が管理する?
高額貨物・壊れ物補償金額と条件が適切か?必要に応じて上乗せ保険を掛ける

✅ 買主側が保険加入する際のおすすめステップ

  1. 輸送条件を確認(FOB/CFR)
  2. 保険会社または通関業者に相談
  3. インボイス金額+運賃+10%で付保金額を設定
  4. 補償範囲はICC(A)が基本
  5. 保険証券の控え・損害時の連絡フローを社内に共有

✅ よくある質問(FAQ)

Q. CIFでICC(C)しか使えないの?
A. いいえ、実務では買主からの要請でICC(A)や特約を付けることもあります。契約書やL/Cに明記しましょう。

Q. インコタームズで保険の責任者を変えられる?
A. 原則は固定されていますが、契約で別途定めることは可能です(例:FOBでも売主が保険を掛けるなど)。

Q. 通関業者に頼めば保険もやってくれる?
A. 多くの通関業者やフォワーダーは保険の手配も代行可能。事前相談がおすすめです。

📘 インコタームズ別 保険加入者 早見表

インコタームズ輸送手段誰が保険に加入するか保険加入の義務備考
EXW全輸送手段買主なし(買主が必要に応じて加入)売主は最低限の梱包・引き渡しのみ
FCA全輸送手段買主なし売主は指定場所へ持込、以降は買主の責任
FOB海上輸送買主なしリスクは本船積込時点で買主に移る
CFR海上輸送買主なし輸送費は売主負担だが保険は買主手配
CIF海上輸送売主あり(最低ICC(C)でOK)保険証券の買主への引渡しが義務
CPT全輸送手段買主なし輸送費込みだが保険は買主手配
CIP全輸送手段売主あり(ICC(A)レベルが原則)インコタームズ2020で「最低ICC(A)」を要求
DAP/DPU/DDP全輸送手段売主(任意)なし売主が輸送全体を手配するが保険は任意

📄 保険証券(Insurance Certificate)サンプル構成

項目内容例
保険会社名日本貨物保険株式会社
証券番号JCI-2024-00001234
被保険者田中商事株式会社(買主)
貨物内容自動車部品(ピストン、ベアリング等)
発地/着地横浜港 → ロサンゼルス港
輸送手段海上コンテナ(LCL)
保険期間2024年6月1日~到着まで
補償条件ICC(A) + War Clause + SRCC条項付き
付保金額USD 35,000(インボイス+10%)
保険料USD 52.50(保険料率:0.15%)
担当者損保代理店 A社 ○○氏(連絡先あり)

※ 発行形式は「保険証券(Insurance Policy)」または「保険付保証明書(Certificate of Insurance)」の2パターンあり


📊 ICC条件別 補償内容比較チャート

補償内容(リスク)ICC(A)ICC(B)ICC(C)
火災・爆発
船の沈没・座礁
船・輸送手段の接触事故
荷役中の落下・破損
盗難・紛失
自然災害(地震・津波等)
雨濡れ・カビ△(条件次第)
過失による事故
海上戦争・ストライキ別条項(War/SRCC)で付保可能
  • ICC(A):オールリスク型(最も広範囲)=商社・機械・精密機器向け
  • ICC(B):中範囲補償。天然災害・一部事故は対応
  • ICC(C):最小限補償。事故(沈没・火災)レベルのみ対応
  • War Clause/SRCC条項:戦争・暴動などの特殊事由を補償(別契約)

これらは社内教育用資料・営業用比較表・保険加入判断のチェックリストとして活用できます。


✅ まとめ:インコタームズは「リスクと保険の起点」

インコタームズの選択は、単に運賃や引き渡し条件を決めるだけでなく、「誰が保険を掛けるか」「どこまで責任を負うか」にも関わります。

とくにFOB・CFR・CIFなど、海上輸送の条件では輸送保険の取り扱いが実務に直結するため、貿易初心者も実務者も正確な理解が求められます。


✅ POINTまとめ

  • CIF条件では売主が保険加入義務を負う
  • FOBやCFRでは買主が自ら保険を掛ける必要あり
  • 保険条件の確認と交渉が実務のカギ
  • インコタームズと保険はセットで理解するべき!