はじめに — “抹茶ブーム”は単なる流行以上

抹茶(Matcha/日本の粉末緑茶)は、近年アメリカをはじめ欧米で「健康飲料」「スーパーフード」「カフェ飲料」の一角として急成長しています。特に米国では、カフェ、ラテ、スイーツなどに抹茶が浸透し、市場規模・需要ともに右肩上がり。こうした背景に、貿易政策の転換が重なり、2025年11月、中日米関係をめぐる関税制度の見直しの中で、日本産抹茶の米国向け輸入関税が撤廃されたとの報告が複数出ています。

本記事ではこの制度変更の意味を整理し、日本の茶産業/輸出ビジネスにとってのインパクト、そして留意すべき実務や市場の課題について、最新情報を交えて解説します。


関税撤廃の概要 — 何が、どのように変わったか

✅ 背景:米国の通商政策と「相互関税」の混乱

2025年4月、米国では広範な輸入品に対してベース関税および「相互関税 (reciprocal tariffs)」を課す政策が発表されました。
これにより日本からの輸入食品(茶を含む)は一律で新関税の対象となり、例えば抹茶を含む緑茶も高い税負担の見込みが出たため、多くの関係者が懸念を表明していました。

しかしその後、2025年11月13日付で、米国側の大統領令により、「茶 (green tea / matcha) 製品を含む一部食品」の輸入関税(特に相互関税分)が撤廃されることが正式に決定された、という通知が、少なくとも複数の輸入業者・茶販売企業から発表されています。

✅ 何が変わったか

  • 対象となるのは、日本産の抹茶および緑茶 (tea / matcha products)。HTS分類上で緑茶に該当する輸入品の関税率が「15%(またはそれ以上)」だったものが、0%/免税に戻ったとされる。
  • ただし、これはあくまで「茶葉・茶粉 (matcha)」など食品としての輸入品に対する措置であり、 茶器 (急須、湯飲み、茶筒など) や関連雑貨 は対象外で、従来どおり関税がかかる可能性がある、という注意も同時に示されています。

今回の関税撤廃により米国内で「Authentic Japanese Matcha(本格日本抹茶)」の価格競争力と流通しやすさが以前より大きく改善されました。


なぜ今、抹茶の関税撤廃か — 背景と時代の追い風

  • 🌱 米国における抹茶人気の急増
     近年、米国では抹茶の需要が急増。健康志向、ウェルネス、代替カフェイン飲料、スイーツやラテ文化の拡大、さらにはSNSや「Matcha Latte」のトレンドが後押しとなり、抹茶は「和文化 × モダンライフスタイル」の象徴として定着してきています。
  • 🇺🇸 通商政策の修正と貿易交渉
     2025年春の相互関税発動による世界的な混乱と、対日貿易や米国民の物価負担への懸念から、政府側が一部食品の関税撤廃に踏み切ったものとみられます。特に、米国内で消費が伸びる「必需・需要の高い食品」に対しては、消費者物価の抑制と安定供給の観点から柔軟な対応が検討されたようです。
  • 🌍 日本茶輸出業界のロビー活動と市場の声
     日本側の茶生産・輸出業者、そして輸入先の米国カフェ・小売業者からの需要と要望も大きく、そうした声が政策転換の後押しになった可能性があります。特に、抹茶は「ただの飲料」ではなく、日本文化・ブランド価値を伴う商品のため、その存在感も無視できない要素だったと考えられます。

日本の抹茶輸出業界にとってのインパクト

🚀 輸出のチャンス到来

  • 関税撤廃により、輸入コストが下がる → 価格競争力向上。これまで関税を価格に転嫁していた輸出業者や輸入業者は、コスト削減分を価格やマージンに回せる可能性が出てきます。
  • 抹茶を使った商品(ラテ、スイーツ、プロテイン、食品素材など)を輸出/販売する企業にとって、価格優位性ある原料調達が可能に。
  • 特に、米国で抹茶の人気が高い「カフェ/スイーツ業界」「健康志向食品マーケット」「日本文化志向」の消費者層に向けたビジネス展開の良い機会。

✅ 直近の追い風データ

最近の報道では、「米国向け日本茶の輸出額・数量が急増」しており、粉末状の日本茶(抹茶含む)の輸出量が前年比で大幅に伸びている、とのデータも出ています。

また、抹茶・粉末緑茶は「健康飲料」「スーパーフード」としての評価が高まり、米国市場でのブランド価値も上昇中。これにより、単純に量的拡大だけでなく、高付加価値商品のポジション確立も可能です。


ただし注意すべき「現実の壁」と実務ポイント

関税撤廃は大きな追い風ですが、輸出・流通には依然として複数の注意点があります。

⚠ FDA(食品規制)や輸入手続きは必須

  • 米国に抹茶を輸入する場合、単に関税がゼロになったからといって自動で輸入・販売できるわけではありません。抹茶は「食品 (food)」として扱われるため、U.S. Food and Drug Administration (FDA) の規制をクリアする必要があります。日本国内での基準を満たしていても、米国基準での残留農薬検査や表示規定などが求められることがあります。
  • 輸出者(日本側)は、FDAへの施設登録 (Food Facility Registration) を行う必要があり、未登録では輸入が認められない可能性があります。

⚠ 供給・品質のバランスが追いつくか

  • 世界的な抹茶人気の高まりにより、日本国内でも抹茶用原料 (茶葉) の需給はひっ迫。生産量・原料確保・加工能力の限界から、供給と価格の安定には不確定要素があります。
  • また、「安価な大量生産」の圧力と、「高品質で伝統的な抹茶」の価値維持とのバランスは難しく、品質管理/トレーサビリティ/安定的な供給体制の整備が求められます。

⚠ 為替・物流・国際情勢の変動リスク

  • 円安/円高の為替変動、国際物流コストの上昇、通関遅延、貿易政策の再変更など、外部要因によるコスト変動の影響を抑えるには、ロングタームのサプライチェーン設計が必要。
  • また、法律・規制の変更 (関税、検疫、食品安全基準など) に対して常にアンテナを張り、柔軟に対応可能な体制を整えておく必要があります。

今後の展望 — 日本茶輸出の“第二ステージ”へ

抹茶の関税撤廃は、日本茶輸出における大きな転機。これまで「価格が高め/関税負担がネック」となっていた輸出企業にとって、新たなチャンスと言えるでしょう。特に次のような戦略が考えられます:

🇺🇸 米国向け高級抹茶ブランドの立ち上げ:品質重視の「セレモニアルグレード抹茶」や「オーガニック抹茶」など、プレミアム商品の輸出

🍵 抹茶を使った加工食品/飲料の開発:ラテ、スイーツ、スムージー、健康飲料、さらにはサプリメント・美容関連商品への応用

🌱 サステナブル/トレーサビリティ重視:生産者情報、産地、品質履歴を明示し、消費者の信頼を得るブランディング

📈 中長期供給網の整備:原料調達、在庫管理、物流の最適化、そして米国側パートナーとの強固なサプライチェーン構築

また、輸出者だけでなく、小売店、カフェ、飲食店、eコマース運営者にとっても、価格低下 + 品質供給の安定は大きな追い風。抹茶市場のさらなる拡大と定着が期待できます。


まとめ

  • 2025年11月に、米国向け日本産抹茶/緑茶の輸入関税 (特に「相互関税」部分) が撤廃されたと報告され、輸出のコスト構造が大きく改善。
  • 抹茶人気の高まり、米国での需要拡大、健康志向・ライフスタイル需要の増加――これらの追い風により、日本抹茶は再びグローバル戦略における有力商品になりつつある。
  • ただし、関税撤廃だけで安心せず、FDA対応・品質管理・供給安定化・為替・物流など、実務的なハードルとリスクをきちんと見据えた輸出・販売戦略が必要。
  • 輸出業者、小売・飲食関係者ともに、「このタイミングで動くこと」が、日本茶の世界展開における好機になり得る