🇺🇸 背景 — なぜ「相互関税」が導入され、そして緩和されたのか

2025年4月、Donald J. Trump 米大統領は、米国の貿易赤字対策および「二国間貿易における通商交渉のてこ入れ」を目的に、ほぼ全輸入品に対し「普遍10%+各国・品目へ追加の“相互関税 (reciprocal tariffs)”」を発動しました。
この措置は、2025年4月5日付で発効。多くの農産品・食品も対象となっていました。

しかしその後、複数国との枠組み貿易協定 (framework agreements) や投資協定の進展、ならびに米国内での食料価格の高止まり/国民の物価負担への懸念などを背景に、2025年11月14日付で、大統領令により「多くの農産品・食品」を再び “相互関税の対象外 (exempt)” とすることが決定されました。

この決定により、米国向けに食品を輸出している国々(日本を含む)をめぐる通関コスト構造に大きな変化が生じています。


✅ 今回「除外 (免税)」された主な食品カテゴリと代表品目

ホワイトハウスのファクトシートおよび通商報道によれば、下記のような食品カテゴリ・品目が“相互関税の対象外 (免税扱い)”に指定されました。

カテゴリ代表的な除外品目/範囲
飲料・嗜好食品コーヒー (Roasted/Green)、茶 (緑茶・紅茶など)
食肉牛肉 (Beef 全般)
果物・果汁バナナ、オレンジ、熱帯果実 (tropical fruits)、果実ジュース (fruit juices)
野菜トマト (fresh tomatoes 等)
加工食品・スパイス等ココア (cocoa)、香辛料 (spices)
その他 (肥料など一部農産関連製品)一部肥料 (fertilizers) も除外対象に含まれると発表。

ホワイトハウスの改訂声明では「coffee and tea; tropical fruits and fruit juices; cocoa and spices; bananas, oranges, and tomatoes; beef; and additional fertilizers」などが明示されています。

引用 The White House

ロイター通信などの報道ベースではこの対象は 200品目以上 (200+) に及ぶとされており、上記はあくまで主要品目の例です。


🎯 なぜこれらの品目が除外されたのか — 背景と意図

  • 除外対象の多くは、気候や地理的条件で米国では十分に生産されていない農産品であり、輸入依存度が高い。今回の判断は、供給安定性と物価抑制を重視したもの。
  • また、最近成立したあるいは交渉中の複数の二国間/多国間の貿易協定 (framework agreements / investment agreements) が、これら農産品の免税を前提としていたことが背景。米政権は「交渉の成果」として今回の除外を位置づけています。
  • インフレや食料価格の高騰が米国民の生活コストに直結していたことから、国内価格の抑制および 食料品の安定供給という政策的配慮も大きな要因。

🎯 日本および輸出企業にとってのインパクト — チャンスと注意点

✔ 輸出コストの改善・価格競争力向上

  • 従来、相互関税で価格競争力が落ちていたコーヒー・茶・果実・牛肉などが、今回の除外で関税コストゼロとなる可能性。日本の食品・農産品輸出企業、あるいはサプライチェーン企業にとっては大きなチャンス。
  • 特に、高価値・付加価値型商品の輸出(例:高級和牛、加工茶、高級トマト/果物、果汁飲料など)を狙っていた企業は、関税コスト分を価格競争力やマージン改善に振り向けられる
  • また、これまで「相互関税+輸入関税」で二重のコスト負担だったものが軽減されるため、米国市場への参入障壁が下がる

⚠ 注意すべき点・不確実性

  • 「除外=永続的な免税」とは限らない:今回の措置はあくまで現時点での「リスト改訂」。米国政権や国際交渉の進展によって、再び課税対象になる可能性も排除できない
  • 品目の定義・分類 (HTSコード) が重要:例えば「加工品」「ジュース」「缶詰」「冷凍」「冷蔵」「鮮果」など形態や加工状態によって HTS分類が異なり、除外対象に入るかどうかが書類の記載や通関で争点になる可能性。
  • 米国内の需要・供給バランスの変動:免税されたからといって必ず輸入が増えるとは限らず、国内生産や他国競合とのバランス、物流コスト、品質、原産地などを総合的に見極める必要あり。
  • 輸出側 (日本) の輸出許可・衛生/検疫要件、包装・ラベル要件など通常の輸出手続きを怠らないこと。

📝 まとめ — 「輸出ビジネス再構築」の好機、ただし慎重に

2025年11月、米国は「約200品目以上」の農産食品について、同年4月に導入された相互関税から除外する大統領令を発表しました。
このなかには、コーヒー、茶、牛肉、トマト、果物・果汁、香辛料といった、日本を含む輸出国にとって主要な輸出商材が多く含まれています。

これにより、米国向けの日本産 (または第三国経由) 農産/食品輸出は、コスト面で再び割安な選択肢となる可能性があります。一方で、HTS分類・品質・通関手続き・需給動向・為替・物流コストなど多くの変数を慎重に見極める必要があります。

輸出を検討する企業は、今回の「除外リスト」を踏まえて自社商材を再点検し、関税コストを除いた上での価格設定・輸出戦略を再構築する良いタイミングといえるでしょう。


🔎 参照情報 (ソース)

  • “Fact Sheet: Following Trade Deal Announcements, President Donald J. Trump Modifies the Scope of the Reciprocal Tariffs with Respect to Certain Agricultural Products”. The White House, 2025年11月14日. The White House
  • “United States removes reciprocal tariffs on certain agricultural products”. KPMG TaxNewsFlash, 2025年11月17日. KPMG
  • “トランプ関税、牛肉・コーヒーなどの食品除外 インフレ懸念で方針転換”. Reuters (日本語版), 2025年11月16日. Reuters Japan
  • “トランプ米大統領、農産品を相互関税の対象外とする大統領令を発表”. JETRO Biznews, 2025年11月17日. JETRO
  • “US exempts 200+ agricultural products from reciprocal tariffs”. Supply Chain Dive, 2025年11月14日. supplychaindive.com