海外から日本へ貨物を輸入する際、「税関事務管理人(ACP)」の登録が必要になるケースがあります。特に日本に住所や事業所を持たない非居住者が輸入者となる場合、この制度を正しく理解しておくことが不可欠です。

本記事では、税関事務管理人制度の概要から、対象者・必要な条件・登録方法・実務での注意点までをわかりやすく解説します。


1. 税関事務管理人(ACP)とは?

**税関事務管理人(ACP:Attorney for Customs Procedures)**とは、日本に住所や事務所を持たない輸入者に代わって、税関手続きや通知の受領などを行う日本国内の代理人のことです。

▼ 制度の目的

  • 日本の税関行政が適切に機能するよう、非居住者との連絡窓口を国内に設ける
  • 不正な取引や脱税を防止するため、輸入者の責任体制を明確化する

2. ✅ 税関事務管理人(ACP)が必要なケース

ケースACPの必要性補足
海外法人が日本国内の顧客に商品を直送し、自ら輸入者となる場合必要日本に拠点がないため、ACPを通じて税関対応が必要
海外個人が日本へ一時的に商品を送付(商用)する場合必要個人でも輸入者となる場合はACPが求められる
越境ECを行う海外事業者が、日本の倉庫へ商品を輸入必要日本の倉庫を借りていても法人登記がなければ非居住者扱い
日本に法人・支店・営業所などがある企業(居住者)不要日本に実体があるためACP不要
日本の輸入代行会社を輸入者として立てる場合不要その代行会社が輸入者となるのでACP不要

✅ 簡単な判断基準

  • あなた(またはあなたの会社)が日本に法人登記・事業所・住所を持っていない
    ACPが必要
  • あなた(またはあなたの会社)が日本に支店や本社を持っている
    ACPは不要

✅ 輸入ビジネスの実務でよくある場面

  • 中国やアメリカのメーカーが日本向けにDHLや船便で商品を発送し、自ら輸入通関を行いたい
    → ACP登録が必要です。
  • 海外のAmazonセラーが日本のFBA倉庫に納品(FBA納品)
    → 日本法人がなければ、ACPが必要です。

補足:法的根拠

税関手続においては、**「日本に居住していない者が輸入者となる場合には、国内の税関事務管理人の選任が必要」**と関税法上で定められています(関税法第95条の2などが関連)。


3. 税関事務管理人の要件とは?

税関事務管理人には以下のような要件があります:

  • 日本国内に住所または事務所を有すること
  • 輸入者からの委任状を正式に受けていること
  • 税関と円滑に連絡・対応できる能力を持っていること

よく選ばれるACPの例:

  • 日本法人の子会社や支店
  • 輸入通関を代行する通関業者
  • 輸入代行会社・物流会社

4. ACPの登録方法(手続きの流れ)

ACPとして登録するには、税関に対して所定の届出書類を提出する必要があります。

▼ 登録手順の概要:

  1. 委任契約の締結(委任状の作成)
    • 非居住者輸入者とACPとの間で委任契約を結びます。
  2. 届出書類の準備
    • 税関事務管理人届出書(様式第1)
    • 委任状(原本または写し)
    • 会社概要や身元証明資料(必要に応じて)
  3. 所轄税関へ提出
    • 原則として貨物を輸入する地域を管轄する税関へ届け出ます。
  4. 税関からの受理通知
    • 受理されると正式にACPとして登録完了

5. 電子申請は可能?

現時点では、ACP登録の電子申請はできず、書面での届出が必要です。ただし、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)利用者である通関業者が間接的に手続きを代行することは可能です。


6. 税関事務管理人を選任しないとどうなる?

ACPを選任せずに輸入しようとすると、以下のようなリスクがあります:

  • 税関手続きが進まず貨物が留め置かれる
  • 通関不許可・輸入差止
  • 適切な通知が届かずトラブルにつながる

7. 実務上の注意点とアドバイス

  • ACPは単なる書類上の代理人ではなく、税関との実務対応が求められる重要な役割です。
  • 信頼できる通関業者や物流パートナーにACPを依頼することで、トラブルを未然に防げます。
  • ACPは輸入申告書にも記載されるため、情報の正確性に注意が必要です。

✅ よくある質問(FAQ)

Q. 通関業者を使えばACPは不要ですか?
A. いいえ、非居住者が輸入者となる場合は、通関業者を使ってもACPの選任が必要です。

Q. 1回の輸入でもACP登録は必要?
A. はい、1回限りの輸入であってもACPの登録は求められます

Q. 個人でもACPになれますか?
A. 原則として法人が望ましいですが、条件を満たせば個人も可能です。

✅【事例①】中国メーカーが日本向けに直接輸出・輸入通関する場合

背景:
中国のアパレルメーカーが、日本のアパレルブランドからOEM注文を受け、日本の港に製品を直送。インボイス上の輸入者は中国メーカー自身。

課題:
中国メーカーは日本国内に住所・拠点がなく、通関申告者になれない。

対応:
中国メーカーが日本の通関業者を税関事務管理人(ACP)として委任登録。ACPが代理で通関を行い、納税・税関対応を実施。


✅【事例②】海外のAmazonセラーが日本FBA倉庫に納品するケース

背景:
アメリカのAmazonセラーが、日本のFBA倉庫へ納品(FBA納品)を希望。インボイス上の輸入者はセラー自身。

課題:
セラーは日本に法人や支店がない非居住者のため、税関手続ができない。

対応:
FBA納品をサポートする日本の輸入代行会社または通関業者をACPとして登録。これにより、通関・納税・税関からの問い合わせ対応が可能に。


✅【事例③】韓国の美容ブランドが日本のドラッグストアに直納するケース

背景:
韓国の美容ブランドが、日本のドラッグストアと直取引を行い、製品を港まで送付。輸入者は韓国ブランド側。

課題:
韓国ブランドは日本に拠点がなく、書類不備や検疫対応の懸念もあり。

対応:
商流に入っていない、日本の物流会社をACPとして選任・登録。日本側での税関手続・輸入申告・検疫立会などを代行。


✅【事例④】ベトナムの工場が自社製品を日本で展示会出展のため輸入

背景:
ベトナムの家具メーカーが、展示会(例:東京ビッグサイト)で製品を出展するため、一時的に製品を輸入。

課題:
日本での受取先がない。また、ATAカルネを使わずに一時輸入で通関したい。

対応:
展示会サポート会社または通関業者をACPとして委任。関税免除を受けるための条件整理・一時輸入手続をサポート。


まとめ

税関事務管理人(ACP)は、非居住者による日本向け輸入取引に欠かせない制度です。制度を理解し、正しく登録・運用することで、スムーズかつ合法的な輸入業務が可能になります。

今後、越境ECや海外法人の日本市場参入が増える中で、ACP制度はさらに重要性を増すでしょう。